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大阪地方裁判所 昭和27年(タ)49号 判決

原告 前田猛雄

〈外一名〉

右代理人 狩野一朗

〈外一名〉

被告 前田ハツヱ

右代理人 三宅徳雄

主文

原告前田猛雄の訴を却下する。

原告前田みのの請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

理由

先づ原告猛雄の被告に対する訴の適否につき判断する。およそ第三者が他人間になされた養子縁組の無効の訴を提起するには養親と養子を相手方とし、その一方が死亡した後は生存者を相手方とすべきところ、本件においては養父政次が死亡した後であるから、原告猛雄は養親みのと養子ハツヱを共同被告として訴を提起すべきものといわねばならない。しかるに、本訴に於て原告猛雄は反つて右みのを共同原告とし、右ハツヱを単独に被告としているから右訴は不適法と謂うべきである。

そこで進んで原告みのの被告に対する請求につき判断する。方式並にその趣旨により真正に成立したと認められる甲第一号証(戸籍謄本)甲第十七号証(養子縁組届)によれば、亡政次及び原告みのが夫婦であつたこと、昭和二十一年五月二十一日原告等主張のような養子縁組の届出がなされ、その旨戸籍上記載せられていること並に昭和二十七年四月十九日右政次が死亡したことを認めることができる。しかるところ、原告みのは、みの自身においては縁組をする意思は全くなかつたと主張するが、この点に関する証人前田久子、同前田常太郎の各証言、原告みの本人尋問(第一、二回)の結果は何れも措信することができず、他にこれを認めるに足る証拠がないのみならず、前示甲第一、十七号証成立に争ない乙第一号証及び証人前田敏之、同堰春海、同工藤清次郎、同前田悦子、同岡田ミノリの各証言並に被告本人尋問の結果を綜合すれば、本件縁組当時右政次はその実子と折合がわるく、家庭的に恵まれない環境にあつたが、同人は原告みのと共に尼崎市の自宅に居住し被告肩書住所に貸家事務所をもうけ同事務所で同人の貸家に関する事務を処理していたところ、同人は昭和十年頃から患つていた眼病のため一人歩きができ兼ねたので、毎日右自宅から右事務所への往復の途中原告みのと被告又はその養子訴外前田悦子、家賃集金の途中は被告又は右悦子が夫々附添うのを常としていたが、特に被告は性質もやさしく同人の眼病を治そうと思つて天理教を信心するなど同人に誠意を尽したので、同人は被告を信頼すること厚く、一方前叙のように家庭的に恵まれない環境にあつたので行末を案じ、本件縁組をしようと考え、原告みのと相談したところ異議がなかつたので、訴外堰春海、同工藤清次郎、同岡田ミノリの意見もきき、被告に対して右の動機を述べ原告みのと共に本件縁組をなし親子関係を結びたい旨申し出たところ、被告においてもその兄である前示堰春海の意見もきいた上、右両名の養子となる意思の下に右申出を承諾したのでついに本件縁組届出がなされ、ここに本件養子縁組が有効に成立するに至つたこと及び右縁組後も右政次原告みのと被告は同居こそしていないが、日常互いに往復して親密に交つていたことを認めることができる。

次に原告みのは本件縁組は右政次がいわゆる妾関係にある被告を養子としたものであるから、公序良俗に反し無効であると主張するので考えてみる。証人前田久子、同前田忠雄、同前田常太郎、同堰春海、同工藤清次郎の各証言並に原告みの被告(一部)各本人尋問の結果を綜合すると、本件養子縁組当時亡政次と被告との間にいわゆる妾関係のあつたことが認められ本件縁組後も情交関係のあつたことが窺われないではないが、前段認定のとおり亡政次及び原告みの並に被告は何れも縁組意思を有していた以上、本件養子縁組は有効に成立したと謂うの外はないから右主張は採用しない。

してみると、本件養子縁組はこれを無効とする理由がないから原告みのが本件養子縁組の無効確認を求める本訴請求は失当であるといわねばならない。

よつて、原告猛雄の本訴は却下すべく、又原告みのの請求は之を棄却すべく訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 乾久治 裁判官 仲西二郎 白須賀佳男)

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